0054 探訪あいち 豊橋鉄道田口線 廃線跡を訪ねて

■2014(平成26)年5月31日(土) 晴

 豊橋鉄道田口線のルーツは田口鉄道で、1929年(昭和4年)に本長篠駅(開業時は鳳来寺口駅)から三河海老駅までが開業し、その後路線を延長して北設楽郡設楽町三河田口駅までが全線開業しました。当初は木材輸送を目的としていましたので、その先も森林鉄道が延びていました。
 全線22.6km、豊川の支流、海老川、寒狭川の谷間を走る山岳路線でした。豊富な木材の搬出、沿線住民の足として利用されましたが、昭和20年代後半に森林資源の減少、沿線の過疎化により徐々に経営が苦しくなりました。1956年(昭和31年)に豊橋鉄道に合併。そしてモータリゼーションの波にのまれ、さらに台風の被害もあり、1965年(昭和40年)に三河田口~清崎間の営業を休止。1968年(昭和43年)8月31日で全線が廃止されました。
 廃止当時の駅は、本長篠駅三河大草駅鳳来寺駅→玖老勢(くろぜ)駅→三河大石駅三河海老駅→滝上駅→〔稲目隧道(1511m)〕→田峰(だみね)駅→長原前駅→清崎駅→鮎淵駅(臨時駅)→三河田口駅。橋梁17箇所、トンネル24箇所があったといいます。

 今日の探訪は、この豊橋鉄道田口線の廃線跡をたどるサイクリングです。

 朝6時10分に自宅発。国道23号、豊明ICから伊勢湾岸・東名高速で豊川IC、国道151号を経由し、1時間40分くらいで本長篠駅前の公共駐車場に着きました。

 身支度をしていたら、非常に目立つピンク色の日産キャラバン2台がやってきました。何だろうと思ったら、車体に大きく
 「みんなのMAEMUKI駅伝
  日本一周駅伝プロジェクト
  走行距離9200km
  まえむきのチカラ、日本に広げよう」
と書いてありました。今年11月までに走りきるようです。
 これに参加する男女ランナー数名が集まっていました。がんばってください!!

 私も一人、出発しました。
 一人探訪は今回が2度目です。出発地が遠方なのがネックだったのでしょう。

 駅から東方向に道なりに進み、国道151号を横切ると、最初のトンネルにぶつかります。一昨年来たときは通過できたのですが、崩落の危険があるということで、トンネルは通行止めになっていました。
 迂回して、県道32号に出ます。

 しばらく走ると、県道をオーバークロスするように一本の高い石積みの橋脚が見えてきます。大井川橋梁跡です。蔦に覆われ、崩壊するのではないかと思ってしまいます。
 ここから「峰」のバス停車場までひたすら上り。かなりしんどいです。
 そのバス停「峰」の横にカフェレスト「まつぼっくり」がありました。店は閉まっていて、どうも営業していない様子。

 一気に下り、三叉路を左折。さらに下ると、鳳来寺駅跡です。今は土産物屋や食堂があり、鳳来寺山への入口となっています。駅跡の痕跡は全くなく、ただ、説明板があるだけでした。
 現在は取り壊されていましたが、旧鳳来寺駅舎は「豊鉄ほうらいじ食堂」として廃止後も使用されました。

 すぐ近くに田代隧道がありますが、通れないように柵がしてありました。ツツジの花に埋もれて『田口鉄道跡』の表示がありました。
 さらに下ると鳳来寺小学校があり、ここから路盤跡を利用した自転車歩行者専用道路が始まります。
 路面状況はよくありません。玖老勢駅のホームがあったとされますが、その痕跡は見つけられませんでした。
 再び鳳来東栄線に合流し、サークルKの角を左折し、海老川を渡って「やまびこの丘」に向かいます。田口線自体は県道に沿ってあったようですが、安全に走れる道を選択しました。

 いかにも鉄道の隧道だったことがうかがえるトンネルを2箇所通り抜け、三河海老駅跡へ。
 一昨年5月に訪れたときは駅跡を示す説明板があったのですが、広場の一部が削り取られて真新しい舗装道路に整備され、すっかり様子が変わっていました。三河海老駅の痕跡は全く撤去されていたのです。現在は豊鉄バス停車場がぽつんとあるだけです。
 古いものは失われ、新しいものに移り変わっていく。すべてのものは変化し続ける。やはり変化は止められないのでしょうか。

 路盤跡の道は人も車も通らず、快適です。岩盤をくりぬいたトンネルの中は少しひんやりとします。

 1510mの稲目トンネルは、元田口線だったところを拡幅して国道になっています。前照灯を2個点灯し、テールライトも点けます。幸い、狭いながらも歩道があるので助かりました。それでも、車が通るたびにゴーッと轟音が迫り、照度もあまりないため、恐怖心で身が縮む思いです。
 トンネルを抜けるとすぐに田峰停車場があり、国道は寒狭川(豊川)に沿って延びています。田口線は左岸を走っていましたが、現在は通れません。

 自転車の人間は私だけでしたが、ツーリングのモーターバイクは何台も走っていました。新緑の中をオートバイで駆け抜けるのも気持ちいいでしょうね。

 清嶺トンネルを避け、そのまま右岸道路を走って清崎へ。
 清崎は小学校がある集落で、かつて清崎駅がありました。駅があった当時は娯楽施設や商店があり、活気を呈していたようです。

 第三寒狭川橋梁(弁天橋)から約4kmは町道となり、生活道路として使われています。しかし、線路跡の道ですから軽自動車でもすれ違いは難しい。それでも、釣りや川遊びに来ていた車が数台ありました。田口線が走っていたときは、鮎淵駅で降りて、釣りを楽しむ人も多かったに違いありません。駅名通り、鮎が釣れたのでしょうか。
 道路は舗装されているものの、特に6箇所あるトンネル内部の路面はかなり荒れていました。おまけに水溜まりもあり、泥の跳ね上げで自転車もウェアもかなり汚れてしまいました。

 終点三河田口駅跡は全くの更地となり、何も残っていません。三河田口駅より先は森林鉄道になっていたとのことですが、その痕跡は全く発見できませんでした。
 1968年(昭和43年)廃止以来、46年の歳月が流れています。路盤跡は木々の茂る林に戻ってしまい、その大半は跡形もなくなっています。鮎渕(臨)停車場近傍で設楽ダムが計画されており、その先の森林軌道跡地も水没予定地となっているようです。

 田口の中心街までは“プチいろは坂”のような上り勾配が約2km。当時は駅から町中までバス路線があったようですが、この坂ではエンジンが唸りを上げていたに違いありません。

 設楽ダム建設事務所前を右折し、さらに急な坂道を登り切ると、ようやく奥三河郷土館に辿り着きます。
 11時5分着、27kmの距離でした。
 ここには田口鉄道ただ一両の生き証人として「モ14」が静態保存され、車内は資料室になっています。事務室の係の方に電車をバックに写真を撮ってもらいました。

 入館料200円を払って、奥三河郷土館を見学します。私以外に入館者は2人のおじさんだけでした。
 奥三河郷土館には田口線の記録写真の他、古代から戦時中までの郷土の資料や動植物の自然観察資料など種々雑多な展示物が、これでもかというくらい、所狭しとあります。説明板も手書きで、手作り感がいっぱいです。学校の文化祭のような趣さえ感じてしまいました。
 館の屋上からは茶臼山や田口の町中が一望できました。

 昼食は設楽ダム建設事務所近くにある焼き肉ダイニング「炎天家(えんてんか)」で。結構おしゃれなお店です。Cランチを注文。今日のメニューは鶏塩ラーメンセット(ご飯、サラダ、漬け物、ミニデザート付き)です。あっさりスープでとても美味しかった。焼き肉屋ということで、ラーメンにトッピングされていた鶏肉は絶品でした。
 若い女性店員に「バイクで来られたんですか」と聞かれました。
「名古屋から来ました」
「え! 名古屋からですか?」
「いえいえ、名古屋からは車で来て、本長篠に車を停めて、そこから自転車で田口線跡を辿って来たんです」
「上り坂で大変だったでしょう。気をつけて帰ってください」
 記念に店の前でシャッターを押してもらいました。

 帰りは下り基調です。“プチいろは坂”もジェットコースターの如く降下してチョー気持ちいい。
 往路はしんどかった道も復路は快適です。

 海老池貝津交差点に「四谷千枚田 2.5km」の標識。千枚田は見たことないし、奥三河まで来る機会はあまりないだろう。それに、往復しても5kmだから、この際寄り道していこう。
 予想どおり上り道でした。
 坂をえっちらおっちら上っていたら、男子小学生に「こんにちは」と声をかけられ、「こんにちは」とお返し。

 四谷千枚田は写真で見るより大きなものでした。名は『千枚田』ですが、実際は1296枚の棚田があるとのことです。ただ単に田んぼが階段状にあるだけの風景なのに、心が落ち着き、ホッとした気持ちになります。実際、ベンチで横になっていた人もいました。時間があったら自分も寝転んでいたかったですね。

 再び、県道に戻ったところで『滝上』のバス停が目に入りました。もしかしたら、このあたりに滝上駅跡があるのではないか、と県道沿いの民家の奥に目をやったら、トンネル跡を発見! そして、そのトンネルの手前の草に覆われたところが、滝上駅跡であることがわかりました。廃線跡とはいえ、これぞ究極の秘境駅ではないでしょうか。50年近く前、ここに鉄道が走り、乗降客がいたと想像すると、ロマンと郷愁を感じます。

 もう一つ、三河大草駅跡を探したかったのですが、これはわかりませんでした。次回の宿題にします。

 午後3時、本長篠駅に到着。当駅止まりの列車がホームに入ったところでした。

サイクリングコース
JR飯田線本長篠駅(午前9時) →〔県道32号線(伊那街道)〕→ 大草 → 峰 → 鳳来寺駅跡 → 鳳来寺小学校 →〔自転車歩行者専用道〕→ 玖老勢 → 大岩 → 三河海老駅跡 → 稲目トンネル → 田峰 → 国道257号 → 清崎駅跡 → 豊川(寒狭川)沿い → 三河田口駅跡 → 奥三河郷土館[見学]→ 田口市街[昼食]→ <折り返し> → 四谷の千枚田 → 滝上駅跡 → JR本長篠駅(午後3時)

使用自転車:cannondale Jekyll
走行距離:60km
走行時間:3時間44分
所要時間:6時間